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2006年08月01日

田んぼの草刈り

先週末は、富山まで、田んぼの草刈りを手伝いに行ってきた。
3反(100m×30mほど)の田んぼが、合計で8枚弱ある。
使う道具は、ガソリンで動く回転刃式草刈りマシンである。
朝8時から12時過ぎまでの4時間で、このうち3枚の「あぜ」の雑草を、
2人で刈るのが精一杯で、この日の体力のほとんどを消耗する。
私は、もう3回目なのでだいぶん上達して、
熟練者の7割ぐらいの速度で刈れるようになったが、
熟練者でも、最大で6時間程度しか動けないようだ。
また、70歳のおばあちゃんでも、健康かつ熟練していれば、
この作業を、半分程度のパワーでできるようだ。
8枚の田んぼを草刈りするためには、
2人がかりでも、まるまる2日の労働力が必要という事になる。

完璧に草刈りをしても、夏だと1ヶ月で元通りになるので、
5月、6月、7月、8月、9月の稲刈り、その次の10月と、年に4〜5回は、
草刈りをする必要がある。奥さんの実家の農地の場合は、
年に20〜30人日の労働力が必要である。
現在の稲作において、最もきつい作業は、草刈りであると言う。

さて、草刈りの労力は、田んぼの面積には比例しない。
「傾斜のきついあぜ道」の面積に比例する。
平らなところは、いわゆる「芝刈り機」のようなもので、
手押し車式のマシンで一気に草刈りができるからだ。
斜面には機械が入れないので、滑らないようにスパイクつきの長靴を履いて、
無理な姿勢で草刈りをすることになる。これがきつい。
腕よりも先に足に負担がくるのである。

日本の田んぼの多くは、扇状地を平らにならして作られているので、
田んぼを平にするために、あぜ道が急斜面になってしまう。
そのため草刈りが厳しいのである。
水稲は、陸稲にくらべて面積あたり生産効率が良いし、味もうまいので、
水稲をやめるわけにはいかない。水稲であるなら、農地の水平を保つ必要がある。

また、傾いているあぜ道は、幅を広くとらないと、すぐに雨で流れてしまう。
3メートル以上の幅をとっておけば、一度あぜ道を盛れば、
30年以上維持することができる。数度の台風で壊れるようなあぜ道では、
メンテナンスにコストがかかりすぎる。

あぜ道を維持するためには、雑草の根が必要である。
除草剤を使うと、雑草が根っこまで枯れてしまい、あぜ道がすぐに流れ去ってしまうので、
長期的なコストを考えると、除草剤を使うのはできるだけ避けた方がよい。

そのために、成長ホルモン剤を散布して、雑草を枯らさずに成長させないという方法がとられるが、
ホルモン剤を含む食べ物を食べることには相当の抵抗があるだろう。

ちなみに、草刈りをしないと、草むらができてしまい、そこは害虫の温床になる。
たとえばカメムシは稲穂の養分を吸い取り、変色させてしまうが、
1000粒に1個(0.1%)の変色米がまざっているだけで、米の等級がひとつ下がり、
売値が大幅に下落してしまう。
実際に草刈りをしていると、あらゆる種類の虫が飛び出てくる。
害虫のオンパレード状態である。これを放置すると大変になることがわかる。
草刈りをしていると、カラスなどの鳥が寄ってきて、害虫を食いまくるので、
害虫対策の効果を実感できる。

以上のようなことがあるので、草刈りは、いまだに重要なのである。

現在の稲作のために必要な作業のうち、草刈りが、
飛び抜けて肉体的負担が高い。これを改善するためのリモコン式草刈り車を、
あと数年で導入予定だという。これでずいぶん楽になるだろう。
田植えは、昔は非常に負荷の高い作業だったが、現在では、
かなり機械化され、誰でもができる作業になった。
さらに最近ではGPSで自動制御する田植機も登場し、完全自動化が実現した。
屋外の見晴らしのよい場所では、GPSの補正信号を使って、角砂糖サイズの精度が出るので、
草刈りも同様に、GPSなどを利用した完全自動化は近いだろう。

稲作に必要な作業がほとんど自動化できたら、稲作従事者が、
その場所に縛られなくなるので、農作業の水平分業が活発化するだろう。
現在の稲作水準では、一人では覚えきれないほどの大量の知識を必要とするので、
自然と、専門分化が進むはずだ。機械を直したり、肥料などの資源を購入したりと
いったことに特化した専門家集団が生まれ、さらにマーケティング集団や、
衛星写真の分析会社など、上位層も構築されていくだろう。
全自動の農業機械は、すべてこれらの情報データベースに接続され、遠隔操作される。
現在の農村地帯に、通信設備とデータベースへのアクセスを追加すれば、
「自動的に運転される液肥タンク車が、自動肥料やり機に液肥を補給して回っているが、
その様子を東京在住のアルバイトの高校生が携帯電話から監視している」
といったようなことが実現できるのだ。自分が食べる米は自分で監視する。
完全自動の前に遠隔操作の時代があるとすれば、
それは「ワーキングプア」の問題に対する一つの解決策にもなるだろう。
こうして付加価値を高めつつコストを減らすことで、農業の収益率も改善できるかもしれない。

2ストロークエンジンの排気に咳き込みながら、
ワイヤレス通信と農業資源のデータベース化によって、
農業が、初めて土地に縛られなくなる時代が、思ったより早く来るかもしれない、
などということを考えていた週末だった。

Posted by ringo : 10:54 | TrackBack