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2005年05月09日

パケットビークル

たとえば自動車を自動的に運転する技術が発達したら、
移動中にほかのことができるので、自動車の速度を遅くすることができる。
通勤に2時間かかろうとも、車の中で新聞を読んだり、朝食を食べたり、
さらには寝たり、仕事をしたりできるので、「常時ゆっくり動いている」
という交通機関が可能になる。ゆっくり移動する専用の道路があって、
そこでは一人乗りの小さな乗りものがたくさん行列をなしている。
ルートが交差するところでは、それぞれの乗りものが、
高度に最適化されたアルゴリズムで、パケット交換の要領で、
パケットビークルの行き先に応じて振りわけをする。
そんなわけで、この小さな、SMARTサイズの乗りものは
「パケットビークル」と呼ばれる。最大速度は20km/hなので、
死亡事故はほとんどない。

「ある時刻にどの位置にいるべきか」は、コンピューターによる
おすすめに任せておける。これを「オートモード」と言う。
スケジュール帳に会議が入っていれば、自動的にそこに向かう。
相手もパケットビークルに乗っている場合、
会議の場所は「不定」でよくなるので、会議の場所を確保する必要はない。
パケットビークルに連結機能があれば、移動中でも良いことになる。
会社のオフィスは駐車場のようなところになり、必要に応じて
無線LANを使って仕事用ネットワークを構築する。
ショップやカフェ、水素スタンドのようなものも、ちいさな、
1台以上のパケットビークルの組みあわせで構成される。
コーヒーが飲みたくなったら、近くにある「流し」
のカフェに連結して、しばし休む。
特別に大きな荷物を運びたいとき(木とか)は、
流しのトラックパケットと一時的に契約して、
「ついてくモード」に設定すると、自動的に後ろを付いてくる。
長期契約をして、倉庫がわりに使う人もいる。
晴れてる日は、屋根や壁をたたんでしまうことができるので、
小さな乗りものでも、非常に開放的である。


パケットビークルの運行は、高度に情報化されている。
最大速度である20km/h の走行中でも、車間距離は30cm程度でよい。
道路の幅も、車幅制御が完璧なので、2mでよい。
現在の道路システムでは細い道でも4mは必要だが、
そのせいで都市の15%が道路になってしまっている。
以上のことから、1個のパケットあたり2m四方の面積が必要になる。
都市の15%が道路なので、東京都に現在ある道路だけで、
7500万台のパケットビークルを同時に運行できる。
また、パケットビークルは小さくて軽く、排気も水蒸気なので、
駐車場は特に必要ではなく、既存の建物の中に収容できる。


移動中のパケットが多いことによる エネルギーの浪費が心配だが、
ひとつひとつのビークルが軽いので、無駄になるエネルギーは小さい。
それぞれのビークルは、自転車の重量(30kg) に、
PC1台(2kg)や空気でふくらませる屋根(5kg)、燃料タンク(3L分)
などを足した分の重さしかない。合計50kg、つまり、
乗る人と乗りものがおなじぐらいの重さになっている。
自動車の場合は、乗る人が50kgでも約1トンのものを動かしているので、
エネルギーの95%はムダになっているのだ。
電気モーターも小さくて済む。
大きな車のエンジンやモーターは、速い速度を出すために大きいが、
パケットビークルは、必要な加速力が非常に小さいので、
小さなモーター(重さ500g程度)で済む。坂道などは、
ギア比をすごく高くすれば、ものすごく遅い速度で上ることができる。
重さの差は、高度に最適化されたハイブリッド車でも、
到底克服できない差である。

最高時速20kmなので、東京から大阪までは、24時間かかることになる。
東京と大阪の人が会議をするためには、中央の静岡あたりで会議をすれば
よいので、12時間で会うことができる。これはかなり遅い。
しかし、高速移動専用に、「パケットビークル用の高速道路」
を用意することができる。つまり、大きなビークルに、
小さなビークルを数百個乗せて、高速移動する。
自動的に運行される、「遅い海上船」も活躍する。
遅い交通が当たり前になったら、現在では遅くて誰も使わない、
海運が、ふたたび利用可能になる。船は、遅い船の場合は
エネルギー効率が非常に高いので、数千のパケットビークルを乗せた船が、
海の上をゆっくりと運行する。

このような時代にも、本当にくつろげる場所である「家」は、必要だ。
しかし、その家も、パケットビークルよりももっと遅い速度で、
移動させることができる。都市生活を楽しむために必要な家のサイズは、
約16m四方なので、パケットビークル64台分の面積があればよい。
仕事の関係上、都心に住みたい人は、立体駐車場のような「マンション」
を使うことになる。家ビークルが、時速1kmで移動できるとすると、
都内の引越しは、仕事中に終わることになる。

いまは羽田空港にいるが、飛行機が来たので、そろそろやめる。
パケットビークルだけで、SF短編小説が、ひとつ書けそうだ。

Posted by ringo : 10:54 | TrackBack

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