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2006年06月20日

PS3復活の方法

PS3(プレステ3)の未来には暗雲がたちこめている。
ゲーム業界は任天堂だけが勝ち、他の企業は不振にあえいでいる状況で、
その中でも特にPS3、そしてSCEの状況が良くないように思える。
困難な状況を打開するための秘策が「高速なプロセッサとハイデフだけ」
というのはあまりにもこころもとない。
ゲーム業界に深く関わっている私としては、SCEには、
何とかがんばって状況を打開し、復活を遂げてほしいと思う。
まだまだ、あきらめてはいけないのだ。

きのう仕事場で井戸端会議をしていたときにでてきた、
SCEとSONYを復活させるための案を紹介したいと思う。
私はいつもSONY復活の方法の話ばかりしているように感じるが、
ソニーは世界における日本の存在感を高めるための資産を
とてもたくさん持っているはずで、それを活かさないのはもったいないと思うからである。
それに、これまで、ゲーム業界における競争が、日本のソフトウェアエンジニアの水準を
押し上げていた面も大きい。ここで競争がなくなると、ほかの国にくらべて
ソフトウェア開発全体のレベルが低下するのではないかと心配だ。

さて、私が仮にSCEの社長だとしたら、PS3関連事業について以下の案を検討する。

1. 端末としてのPS3は、一般に販売しない。すべて、データセンターに置き、SCEが管理する。

2. ユーザーが購入するのはハードウェアではなく、ハードウェアをリモートから利用する権利である。

3. ユーザーが3万円支払うと、データセンターにPS3が1台確保され、それをリモートから
いつでも利用することができる。あるいは、 月額利用料金制とし、10GFLOPSあたり100円/月
といったプランを選んだり、選択式や友達と共有を許す方式にしてもいいかもしれない。

4. データセンター内には10Gbpsイーサネットが完備され、PS3同士を連結する。

5. つまり、SCEはPS3をノードとしてもつ、1個のスーパーコンピューターを製作することになる。

6. データセンターにはGyaoの数倍の能力をもつ回線を用意し、
世界全体にファイバーを張り巡らせてハイデフ映像を好きなだけ送信できる体制を整える。

7. データセンターの名称は当然、 PlayStationMatrix (PSM)である。

8. データセンターに対して、SONYのハイデフテレビ、携帯電話、PSP、PS2、VAIOを通して、
いつでもワンタッチで接続でき、PS3が生成する映像を見たり操作ができるようにする。
PS3の映像をそのまま垂れ流し、PSPコントローラーの入力をそのままPS3に流し込む。

9. SONYのビデオカメラからはワンタッチでPSMに対して映像を送ることができる。
PSMは世界中から集まってくる映像を処理する、世界全体に対するの映像プロセッサとして機能する。

10. データセンターに置かれているPS3は、基本的にCPUとメモリと10GbEのNIC1個しか持っていない。
電源ユニットやHDDは共有するから不要。筐体、DVDユニット、DA変換器、
コントローラー、メモリカード、ファンは不要。丈夫に作る必要もないし、熱対策も、
端末のときより壊れやすくてもよい。いつでも交換できるから。防滴も、防塵も、耐衝撃も必要ない。
さらに筐体デザインも必要ない。おそらくグリッド構築専用の基盤デザインになり、
1チップあたりの構成コストは劇的に下がる。
流通コストもいらない。組み立ても最小限で済む。
ほかにもソフトウェアのディスクを製造する設備も必要なくなる。

11. 電気がたくさん必要になるが、それははてなみたいに風でまかなう。
電源アダプターが電力を無駄にしなくなる。送電する距離が減るから効率が上がる。

12. プロセッサの空き時間は、気象シミュレーションや流体シミュレーションに割当てて、
大学や自動車会社、検索エンジン企業、映画会社などに販売する。

13. 「昼は仕事場からVAIO経由でPSMを使い、
通勤中はPSPからPSMを使い、夜はPS2やwiiからPSMを使う」というスタイルを確立させる。

14. PS3用のLinuxディストリビューションを載せ、アプリ開発環境をユーザーに公開する。

15. レスポンスを維持するため、世界の数カ所にデータセンターを分散配置する。
たとえば、30fpsはゆずれないとすると日本には2カ所必要。

16. ローエンドゲームを遊ぶ場合は、1チップで複数アプリケーションをホストしコストダウンする。

簡単にコストモデルについて考える。

たとえば横浜の地球シミュレーターは40TFLOPS/10TBで400億円かかっている。
しかし、スーパーコンピューターのコスト要因は、プロセッサ間の通信にある。
地球シミュレーターの場合は、全体として一つの巨大な計算ができるように実装
されているので、プロセッサ間通信の効率を最大にするために、
膨大な配線などが必要になっているが、PSMの場合はまずは
コンシューマー向けのアプリケーションを動かすので、
全体をそれほど緊密に連結する必要はない。近くに置くために円形に配置する必要すらない。
したがって、設備のコストは、地球シミュレーターほどは高くないはずである。
さらにこの場合、プログラム実行の並列度が高いので、理論値に近い性能が出る。
また、PSMは地球シミュレーターと異なり、ユーザーが増えるにしたがって増設するという
モデルをとるので、最初に莫大な初期投資をする必要はない。

つまり「ユーザー1人あたりSCEがかかえるリスクが上限を超えない」ことと、
「ユーザー数が増えるにしたがって1人あたりコストが逓減する」という条件さえ満たせば、
PSMはビジネスとして成立するのである。

1人当たり初期コストについては、上記10.で述べたように、CPU、メモリ、NIC以外いらないし、
グリッド用に最適化した設計ができるので、1台7万円のところを、
2〜3万円程度までは減らせるはずだ。これなら、PS2からの「買い替え」も可能だ。
次に1人あたり維持費用については、常にハイエンドゲームをやるわけではないから、
平均稼働率が20%だとすると、 1ノードで50Wの電力が必要になるなら、
毎月の電気代は2〜3百円以内となる。回線費用は、テトリスのようなゲームの場合は、
映像を垂れ流すとしても 100kbpsでいいが、通常のゲームを携帯からプレイする場合は
1Mbps、ハイデフテレビで遊ぶなら100Mbpsほしい。上と下で1000倍も違うので、
ここはさすがに「今月はハイデフテレビでFF13やるから1ヶ月で8000円、高え〜!!」とかいいながら、
嬉々としてPSM対応BRAVIAを買いにゆき、来月は麻雀だけやるから月100円、
といった感じになるのが正しいのだろう。
1ユーザーから平均して毎月2000円を徴収し、1000万ユーザーを確保できたら、
端末代金2000億円、基本利用料金だけで毎月200億円となる。ここにさらにソフトウェアの売り上げ、
映像ストレージや携帯電話との連動、余剰CPUパワーの切り売りなどを加味してユーザー単価を上げていく。

PSMは、ゲーム開発者にとっても巨大なメリットがある。
オンラインゲームのチート行為を無くすことができること、
プログラムのアップデートが簡単になること、PS3ノード同士の遅延がすごく小さいこと、
データセンター内の通信が安定していること、P2P接続が確実に成功すること、
DVDの容量に関係なくデータ量を提供できること、確実にすべてがオンラインであること、
デバッグ情報を仕込んだプログラムを実行できること、
などなどなど。。。はかりしれない。
これらの条件が満たされているアプリ開発環境は、いまのところ世界に存在しない。
プログラムに必要な場合分けやエラーチェックが劇的に減るに違いない。

この奇跡的な環境を手に入れたら、小さくて面白いゲームがどんどん出てくるはずだ。

PSMの利用権(200GFLOPSプラン)を月1800円で購入し、
PSMグリッドに自分のPS3が追加されて電源ランプが光り始めるところを想像すると、
ひさびさにプレステでわくわくしてしまった。

SONYならできるはずだ。

Posted by ringo : 08:00 | TrackBack