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2005年05月23日
野菜工場:農業の土地からの解放
最近、HDDレコーダーを手に入れたので、テレビを見るようになった。
米国に行っている間に録画されていた、5月18日のNHKのクローズアップ現代では、
野菜工場がテーマになっていた。
非常に面白い番組だったが、政治的な理由(?)で本当におもしろいところが
紹介できてないように思えたので、ここに書いてみる。
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まず、番組では、3つのことを強調していた。
一つめは、土地面積あたりの野菜収量が太陽光農業の4000倍もあるということである。
しかし、野菜工場は、いくらでも高層に積みあげることができるので、
土地面積あたりの生産性を論じることに、まったく意味はない。
番組では10階建てのビルだったが、20階建てのビルにしたら8000倍になってしまう。
二つめは、番組では、赤い光を多く当てると、
作物に含まれるポリフェノールなどの有用成分が多くなるなどの効用があるということである。
これは初期の野菜工場のビジネス化にとっては、非常に重要な点だが、
長期的にもっとも重要な点ではない。
三つめは、人件費がかかるということである。
しかし、植物工場の人件費は、大規模化とロボット化によって、
圧倒的に軽減することができる。これは長期的には最重要課題ではない。
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さて、野菜工場について最も面白い点は、既存の、
太陽光と自然環境に依存した農業よりも効率を高めることができるかどうかを考えることである。
野菜工場と聞いたら、誰でもが、エネルギー効率について興味がわくはずだ。
野菜工場は、レタスなどの「葉もの」から、トマトやイチゴなどの「実もの」を経て、
最終的には穀物に到達する。この順番になる理由は、
投入エネルギー(CO2と光)あたり売上高の高い順番である。
レタスは葉そのものが商品になるので、1円投資あたりの売上が大きい。
たとえば、レタスの場合は、1トンのCO2が光合成に使われたとして、
その2桁%が商品になる。それに対して「実もの」は、
葉などの実でない部分を捨てることになるので、
CO2を1トン入れても、1桁%程度しか商品にならないだろう。
穀物も実ものだが、イチゴなどにくらべると、
商品の炭素1グラムあたりの相場が安いので、最後にくるというわけだ。
酵素による発酵などをつかってゴミの部分に含まれる炭素をリサイクルする
技術ができたとしても、光の投入量は減らせないので、
CO2と光の合計投入量あたりの売上が問題になるのだ。
さて、番組によると、現在の「工場レタス」は、
1束あたり150円から200円で安定供給できるという。
これは、レタスが豊作のときは地面のレタスよりも高いが、
凶作のときは地面レタスよりも安い水準だ。
エネルギー効率があと数倍良くなったら、常に地面のレタスより安く作れることになってしまい、
レタス農家は大ダメージを受けることになる。さらにこれを広げると、
いままでの農業全体が、工場農業に、まったく歯が立たないことになってしまう。
日本にはまだまだ農家がいるから、こんな内容の番組は放送できないだろう。
さて、結論からいうと、ふつうの野菜や穀物、果物については、
工場生産のほうが常に効率を高くすることができるようになる可能性が高い。
工場生産専用のロボット開発や品種改良(たとえば台風がこないので、強い風に耐える茎が不要)、
夜間電力の活用、工場地帯や生ゴミ分解での排CO2の活用、野菜工場専用のLEDの開発
(現在は汎用のものを使っている)、まったく新しい栽培法、
季節依存からの脱脚、地域依存からの脱脚などなどを組みあわせることで、
少なくともレタスについては、そのうち逆転現象が起きるだろうし、
ほかについてもひとつづつ逆転していくだろう。
さらに、そもそも農薬をほとんど使わないので環境に農薬をたれ流さなくてすむとか、
逆に酸性雨や環境ホルモンなどの影響を受けないといった安全性のメリットや、
都市の中心部で新鮮な野菜を作って届けられるとか、
肥料が雨で流れないとか、冷害がないとか、
冒頭の有用成分の増加、淡水資源の有効利用ができるなどといったメリットを合わせていくと、
限りなく地面の農業の分が悪い。現在の地面の農業は、
石油から作った肥料を大量に畑にばらまいてそれを海に流し、
大量のガソリンを燃やしてそれを都市に運んでいるのだから。
こうして農業が土地から解放されたら、
エジプトなど原油の安い国では、石油を売るより農作物を売るほうが
儲かるという計算さえ成立してしまうかもしれない。
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こういう時代が来たとして、日本はどうしたらいいだろうか。
明るい面としては、すでに日本に蓄積されているロボット技術を農業用に応用して、
世界に対して、新しい農業ロボットを売っていくこととか、
品種改良に重きをおくことが考えられる。
しかし、暗い面としては、これまで農業に従事していた人の問題があるかもしれない。
長期的には農業人口をさらに減らして、
いま商業的に農業をやっているところを広葉樹林に戻して、
遺伝子プールの温存のために役立てるとし、
短期的には、植物については工場に任せ、工業化しにくい、
畜産や魚の養殖などの動物を使った農業に変化させていくと良いかもしれない。
50年ぐらいたって日本の人口が減り、農業をする人が減っても、
それはそれで問題ないのかもしれない。
世界史は気候と地形と日照量が農業に与える影響によって決まってきたが、
それらが重要なファクターでなくなったら、いったい世界史はどういうことになるんだろうか。。