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2005年10月07日
孫子の五事
通勤電車の中で「孫子」を読んだ。
学生時代に一度読んだような気がするが、まったく覚えていなかった。
しかし、今回は、強烈なショックを受けてしまった。
会社を経営するなかでマネジメントの失敗を何度もしているうちに、
いつのまにか、内容を理解できるようになっていたのだ。
「孫子」は、
「計」「作戦」「謀攻」「形」「勢」「虚実」「軍争」
「九変」「行軍」「地形」「九地」「火攻」「用間」の13章からなる。
しかし、第一章の「計」の、しかも最初の数行に、
そのエッセンスが、ほとんど詰まっている。
> 孫子曰く、兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、
> 察せざるべからざるなり。故にこれを経るに五事を以てし、
> これを校ぶるに計を以てして、其の情を索む。
> 一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法なり。
> 道とは、民をして上と意を同じくせしむる者なり。故にこれと死すべく
> これと生くべくして、危わざるなり。
> 天とは、陰陽・寒暑・時制なり。
> 地とは、遠近・険易・広狭・死生なり。
> 将とは、智・信・仁・勇・厳なり。
> 法とは、曲制・官道・主用なり。
> 凡そ此の五者は、将は聞かざること莫きも、これを知るものは勝ち、
> 知らざる者は勝ち、知らざる者は勝たず。
ここまでで、「孫子」の内容の50%は書かれている。
さらに第一章の続きで、「兵とは、詭道なり」というところまでで、80%となる。
私が感動したのは、将たるものが理解せねばならないという「五事」の、登場順番である。
道、天、地、将、法。
私がいくつもの失敗からなんとなく得た、自分の中の「組織運営における大事なことの順番」が、
2500年前にすでに完璧に考えられていたことにおどろいたのだ。
道、天、地、将、法の順番を強調し、解説を参考にしつつ現在の言いかたにかえるとこんな風になるだろう。
道とは、人の心をひとつにするための、政治の方法である。
天とは、世の中の状況で、自分の力だけではどうしようもない状況のことである。景気とかがこれに当たる。
地とは、自分の状況で、たまたまその業界にいたとか、その会社にいたとかいう事実である。
将とは、組織を構成する人材のことである。
法とは、会社の規則のことである。
この順番に重要である。
これに照らして考えると、たとえば、
「なんだか、会社に技術が蓄積されない。」という問題に対して、
「じゃあ、優秀な人材をたくさん雇えばいい(つまり将を改善せよ)」
という案に対して、
「違う業界にチャレンジしてみたらどうか(地の改善)」
「状況が変わるのをしばらく待つのはどうか(天の改善)」
「経営スタイルを変えてみたらどうか(道の改善)」
といった、もっと上位の問題解決を提案できるようになる。
「孫子」の第一章を暗記しておくことで、これを、即座にできるようになるのだ。
よく考えると、これは、単純に抽象度の高い順だ。
抽象度が高く、影響範囲の広いものについて優先的に考えろということだ。
しかし知恵がないうちは、ついつい抽象度の低い、具体的に想像しやすい対策を考えてしまう。
仕事内容(道)、人材(将)、ワークフロー(法)。
しかし本当の問題はもっと高レベル(道や天)で起こっているから、
具体的なことをいくら変更しても問題は解決しないのだ。
孫子の「五事」は、この知恵を、暗記できる形式にしてくれる点が、すごい。
あたりまえのことを、あたりまえにできるというのは、
つくづく、究極のスキルだと思う。
先は長い。
Posted by ringo : 23:14 | TrackBack
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